データ人間 長嶋茂雄
すっごい面白い話がある
1994年って日本のスポーツ当たり年だったんだけど
プロ野球は長嶋茂雄監督の読売ジャイアンツがそれまでずーっと勝てなかった西武ライオンズに勝って日本一
それも石毛宏典がまだ現役で存在した西武ライオンズに勝てたことがよかったと読売ジャイアンツの選手だかコーチだかの発言があるくらい最高の勝利だった
逆にいうとそれくらい石毛宏典は1980年台のプロ野球を象徴する存在でもあるんだけど(広岡達朗さんの日本プロ野球近代化に関わる最大のピースかもしれない)
サッカーでは大スター軍団イタリアのACミランが知略を尽くしたアルゼンチンの歴史は長いが無名に近かったベレスというチームに0−2で敗れるという大波乱、しかもそのベレスの監督が知略を用いて合理的に戦ったその戦略とベレスのアサドというFWの個人的な突破力がすっごい面白かった
そして今一度プロ野球に戻ると、長嶋茂雄監督から「国民的行事」とのちのバラク・オバマや小泉純一郎の「ワンフレーズ」の基礎ともいうべき長嶋語がメディアに踊り日本の多くの人をプロ野球に惹きつけることに成功した10.8決戦が行われたのもこの年だ
ただ今回はっきりしてることは西武ライオンズと読売ジャイアンツの間で行われた日本シリーズにおける長嶋茂雄のデータ理論であって10.8の方ではない
この日本シリーズで一番興味深かったのは第3戦から第5戦の間だ
この試合は埼玉西武ライオンズ球場で開催され中継がテレビ朝日、すなわち解説席にあの野村克也ヤクルト監督(当時)が座っていたのだ
野村監督の解説は理論的で適切で的確であったが2つ困ったことがあった
1) 野村さんの意見で考えると、長嶋監督の作戦は全部間違ってることになる
2) なのに長嶋監督の打った手が全部当たってしまった
特に2はキツくて解説席で半笑いの野村監督が何か批判すると次の瞬間逆の目が出るので大変バツの悪いシリーズ解説となった
野村監督の意見は間違っていたわけではない
ただ長嶋監督の作戦は通常モードで考察するタイプの野球人には理解できないだけだ
野村さんは王道の人で長嶋さんは長嶋茂雄という理論の人だと言えば理解しやすいだろうか
でも正確にいうとそうでもない
少なくとも野村さんは正しい
ただ長嶋さんは別のディメンジョンでものを考えていたのだ
例えば野村さんによれば郭泰源は高速スライダーピッチャーで最高級のスライダーを投げるが、吉村禎章はスライダーが苦手だ
だから4番指名打者の吉村禎章は先発の郭泰源を打てないだろう
しかしその発言の直後、吉村禎章はライト線に鋭い打球を放った
あの抜刀スイングが一閃し振り抜かれたバットの軌跡も確認できないままカメラが外野を抜けていくボールを捉えた
(動画:四球目のスライダーを空振りすると解説の野村克也さんは言った、吉村の弱点はスライダーで郭泰源のスライダーは一級品だと)
ライトからの返球が戻りセカンドベース前に到達した吉村はこのままでは間に合わないと判断したのかヘッドスライディングした
結果はツーベース
このランナーがのちにホームに帰り巨人は1−1の同点に追いつくことになる
その後、第二打席、驚きのベンチリポートがくる
(郭泰源が吉村禎章に苦手意識があるとのレポートが入る、直後に吉村禎章は郭泰源からフォアボールを選んだ)
対戦する郭泰源投手が吉村禎章について「(過去の対戦で)打たれてるんだよな・・・」と言っていたのだ
野村克也はこの後で配球が間違っているだけでスライダーが苦手であることに間違いはないという、その通りなんだろう
そして長嶋茂雄は投手が苦手にしている打者であることを最優先に考えていたのだろうと思う
野村さんはキャッチャーの位置から
長嶋さんは打席の位置から
それぞれ野球を見ているので意見に相違があるだけでどちらも正しいことを言っているのだ
しかし世間の評価は「勘でやってるコンピュータではなく勘ピューター長嶋茂雄」というものだった
まあマスコミが書かなきゃ流行らなそうなワードではある
なので1994年の日本シリーズを終えてもなお長嶋茂雄には短期決戦では神がかり的な采配をするが普段は凡人以下というイメージがあった
だが数年前にとんでもない動画が出た
ちょっと探し出せなかったのだが三井スコアラーと長嶋茂雄監督の会話で三井スコアラーが対戦チームの調査結果を持って監督のところに行くと監督もメモを持っている
三井スコアラーが報告を終えると長嶋監督が言った
「三井、これは?」
長嶋監督も独自に対戦相手のデータを持っていて、そこを三井スコアラーが指摘しないあるいは探し出してないと「怖かった」そうだ
確かそんな動画だったと思うけどこの部分は曖昧だ、私の記憶だから
ここからわかることは長嶋茂雄は表向き朗らかに長嶋茂雄というキャラクターを維持している一方で裏ではデータと戦略を細かく計算していたということだ
ただレギュラーシーズンは100試合以上あってそのどの試合もその試合しか観にこられないお客さんがいる可能性がある
これは読売ジャイアンツではどの時点からかわからないが記載のないルールみたいになっている
だからどんなに点差が離され負けていようとも最後まで試合に勝つ努力だけはする
なので野手を登板させるなんて長嶋監督の時代まではあり得なかった
その関係でレギュラーシーズンはややエキセントリックなシーンもあったかもしれないが
どちらも長嶋茂雄監督はその役割とキャラクターを全うしたに過ぎず
裏側には緻密なデータが渦巻いていたのだ