結婚披露宴の命運をかけた日本シリーズ、そして満塁ホームランを…【緒方耕一】
緒方耕一さんって言えば前任の青い稲妻だった松本匡史選手(通算342盗塁、打率.278、出塁率.340)がトップバッターとして君臨していたものの引退となり後任の巨人生え抜きで俊足のトップバッター候補としてよく名前を聞いた選手でした。
残念ながら一番打者として松本さんの後継とは行きませんでしたが通算96盗塁で盗塁王を松本さんと同じ2回獲得した選手です。
彼のプレーで一番印象に残っているのがこの動画でご本人も語っている日本シリーズ1994年第五戦、1−1同点で迎えた6回表の満塁ホームラン。
この本塁打で巨人は勝ち越しに成功。
先発桑田真澄投手が完投して巨人3勝、西武2勝となり日本一に王手をかける一打となりました。
緒方選手が語ってないこと
この動画で緒方選手が語っていないことと、当時の緒方選手がどんな選手だったのか、そしてこの満塁ホームランを打った場面がどんな場面だったのかをちょっと紐解いておきたいと思います。
当時の西武ライオンズは最強チーム
まず対戦相手の西武ライオンズですがこの当時のトップチームで森監督になってから日本一が6回もある名門チームに成長し1980年台から1990年代初頭にかけては12球団でも最強のチームでした。
さらに言えば巨人からすると天敵でもあります。
巨人は1983年、1987年、1990年と三度も西武ライオンズと日本シリーズを戦って全部負けてるんです。
この3回のうち1983年だけが江川卓投手が試合前に怪我してなかったら勝てたかもしれない唯一の日本シリーズで1987年は槙原投手をもっと積極的に活用していればあるいは勝てたかもしれないですが全体的に野球の質(辻選手の長躯ホームインもこのシリーズ)で西武の方が遥かに高くなっており球界の盟主の座を奪われるようなシリーズ、そして1990年の日本シリーズは巨人自慢の先発投手陣が四人全員打ち込まれて一度も勝てずに敗れ去りました。
完璧に西武ラインズはトラウマ級のチーム、1980年代だけでいうなら西武ライオンズに日本シリーズで勝てたのがバース、掛布、岡田の三人が揃った阪神タイガースだけでした。
緒方選手は守備固めや代走要員だった
レフトにはその年私が選手としても応援歌の曲調も好きだったダン・グラッデン選手が参加し緒方選手の出番は少なかったです。
打撃の方ではどうしても一番打者を任されたグラッデン選手や、当時の巨人打者が悉く苦手にしていた左投手に強い怪人ヘンリー・コトー選手(この人も打席でぼんやり立ってるようでいい場面で打つ不思議な選手で好きでした)の二人がいたので途中出場にならざるを得なかったのは仕方ない面がありました。
だから打撃では期待されていない人というのが個人的には1994年時点の緒方選手へのイメージです。
その緒方選手が満塁ホームラン、それも西武ライオンズ相手に、それも日本シリーズの同点の場面で、それも相手投手が中継ぎエース級の杉山投手からっていうのがすごい話でした。
でもあの場面、テレビで試合見ながら私は思ってました「ここは緒方選手だからチャンスがあるぞ」って
実はあの場面でテレビ解説者たちも中継アナウンサーたちもあまり感じている風ではなかったのですが、視聴してた私は緒方選手なのでここはチャンスだと思ってました。
ランナー満塁で打席に緒方選手。
しかし緒方選手には一つポイントとなる属性がありました。
WIKIを見てみましょう。
『投球・打席 右投両打』
『読売ジャイアンツ(巨人)から6位指名を受け入団。入団後スイッチヒッターに転向。』
この2点を私は知ってましたしもう一つ。
『右打席はパンチ力があり、この日本シリーズを含めて17本の柵越え本塁打(ほか1本のランニング本塁打)を放っているが、この17本中11本は対戦数の少ない左投手相手に右打席で放ったものである。』
ここまで詳しいデータは知りませんでしたがレギュラーシーズン中の緒方選手に関する解説でこんな話があったんです。
LINK
プロ入りしてからスイッチヒッターになった選手で、右打席の方が長打の多い選手
この人が元々右打者で個人的にはスイッチヒッターやめにして右打者としてやっていけばいいのにと思ってたくらいの選手でした。
そして日本シリーズの巨人打撃陣ですが故障した落合選手がスタメンに居ませんでした。
打者は
3番 松井秀喜(左打者)
4番 吉村禎章(左打者) この試合でソロホームランを打っている
5番 岡崎郁(左打者) チャンスに強く日本シリーズでも活躍1989年はこの人の打撃で勝った
と左打者がずらっと並んでいました。
5回の表に西武ライオンズは先発の渡辺久信投手が崩れ森監督が投手交代を決断。
場面的に巨人の打順が3番からだったので左の杉山投手を出してきました。
その場面は松井(左)、吉村(左)を杉山投手が抑えて切り抜けましたのでこの起用はもちろん大正解。
ところがこの杉山投手が次のイニングも続投、そして巨人は日本シリーズで打てなくなってたグラッデン選手を長嶋茂雄監督がどこかで諦めるタイミングを考え続けていました。
そのタイミングがちょうどこの時点で来ていて多分前の回の守備あたりから緒方選手に交代してたんだと思います。
杉山投手はシリーズ中何試合も好投していたのですが流石に登板過多になっていたのか2アウト満塁のピンチ。
ちょうどそこに緒方選手の出番が回ってきました。
このタイプの打者が苦手だと予言していた野村克也監督
このシリーズ長嶋茂雄監督と真逆のタイプだったのが対戦相手の西武ライオンズ森監督と、当時ヤクルトの監督だった解説の野村監督。
野村監督の解説の逆張りみたいなことばかりする長嶋監督ですが野村監督の心配をよそに長嶋監督のそれらの手はズバズバ当たっていきます。
野村監督もやりにくい解説だったんじゃないかな。
しかしこの満塁で緒方選手の場面は野村監督もここは打者が有利なのではないかとみていました。
私は先ほど申した通り右打席で長打がでやすい緒方選手の特性を知っていました。
ここは外野手の間を抜くようなロングヒットが出るんじゃないか?と期待してみたいたのです。
結果はカウント2−2から引っ張った打球がレフトへ。
実況アナウンサーも打った瞬間はそんなに緊迫感のない声だったのですが、意外に打球がのびていっようやくヒートアップ。
結果はなんと満塁ホームラン。
1−1の緊迫したクロスゲームが一気に大量点で有利になるっていうビッグイニングになっちゃいました。
場面も良かった
いい場面で回ってきた運もありますし落合選手の欠場も落合選手には気の毒な言い方ですが緒方選手のこの打席には幸いしました。
もしこのときマウンドにいたのが右サイドスローの鹿取投手や同じく右サイドスローの塩崎投手だったらこの結果はなかったかもしれません。
だってその場合は緒方選手は左打席に立つわけですからパンチ力が減衰します。
森監督の作戦としてはこの緒方選手のプロパティを理解していればここで右にスイッチする手もあったと思います。
もし緒方選手にヒットを打たれたとしてもアウトカウントは2アウト、次の打者が右の川相選手ですから右サイドスローの投手は打ちにくかったと思います。
でもうまい具合に緒方選手なら杉山投手の力量で抑えられるだろうと考えてもらえたのかなと思います。
前のイニングからの展開とその年あまり活躍していなかったことで対戦相手がそこまで緒方選手を研究していなかったのかもしれない。
様々なことが重なって生まれた満塁ホームランだったかと思います。
まあ野村監督の解説もバッチリ当たっていい結果だったんじゃないかな。