刑事コロンボ 別れのワイン について Any Old Port in a Storm (19)

初放送 1973年10月7日

ページ最終更新 2022年3月6日

どんな話か?

 ワインを製造販売する会社を経営する男性が勢い余って殺人を犯してしまう。

彼は知恵を絞って咄嗟にアリバイ工作をしようと図るが、運悪く事件の担当はLA市警コロンボだった。


日米で異なるワインのテイスティングシーン

冒頭シーンは犯人のワインテイスティングで始まります。

「友人」の三人に高級な赤ワインを振る舞います。

この部分

私の大好きなこの当時の日本語吹き替えだとエイドリアンの声は終始落ち着いていて抑揚をあえて抑えて説明します。

しかし英語版だと俳優さんはバストショットになる辺りでじわじわと舞台の演者が一人語りをするみたいにわーっと盛り上げて見せています。

この辺の日本の淡々と話す感じと、アメリカ版のワインの説明自体がちょっとした独り舞台になっている違いというのも面白いです。


殺害前後の違い(日米)

弟さんのリック(被害者)登場時点からちょっと違っていて面白いです。

社長室でエイドリアンはリックの問いかけに笑って答えます。

日本版だと「はっはっは」という乾いた笑い声ですが、これが英語版だと思わず吹き出した+相手を嘲笑する感じの笑いが混じった複雑な笑い声を上げています。

この後のシーンを考えると英語版の笑い方はすごくつながりが濃い感じがしませんか?

また、その後のお金の無心もちょっと違うんです。

リックの声が日本だとお金の無心段階で軽い感じにねだってきますが、アメリカ版だとトーンが同じです。

お金を無心する際に日本だと一抹の罪悪感みたいなものを滲ませながらこの人物は若干軽薄だらしのないヒモみたいな感じの男ですって演技をします。

英語の方だと少し力なく金がいるんだというだけです。

その後のマリノ酒造に会社を売るという弟とそうはさせないという兄の喧嘩も、弟のリックは英語版だとそこまで馬鹿にするような言い方をしていないのが日本語版との違いです。

つまり英語版だと殺人犯になる兄と被害者になる弟の関係がいい兄とダメな弟という単純化させた図式に抑えて視聴者にわかりやすくしていますが、英語版だと個々の部分がやや複雑化しています。

そして弟リックの最後の言葉がだいぶやばいです。

日本語「わめいたって無駄さ(馬鹿にしたように)」

英語「選択の余地はない(事務的に)」

個々のちがいは実は英語版だとわかるある二人の問題が隠されているとおもいます(後述)。


さて殺害後に隣室にワインを運んだ兄のエイドリアンですが秘書に遭遇します。

出勤してこないはずだった秘書に遭遇した結果エイドリアンは非常に動揺したでしょうがそれを必死に隠して会話します。

ここが英語だとうまく表現されているのですが、残念ながら吹き替え版はここがちょっと弱い感じがします。

なのでラストシーンが吹替版だとやや唐突に感じてしまうのかも知れません。

NHKの意図としてはおそらく図式を単純化して幅広い層にわかりやすくしようと心がけたのかも知れません。

この辺は当時の視聴者層の違いなのか放送局の姿勢の違いなのかわかりません。

だから英語版では出てくるワイナリーという言葉も、このシーンでは吹き替えにされていなかったりします。

この時期の日本人にワイナリーという単語はあまり馴染みがありませんので、ワイン工場なんていう言葉でより理解しやすくしているように感じます。

NHKも非常に細かい部分にまで気を配っていたと感じられます。


デキャンティング震える手

日本版でも小さいながら聞こえますが英語版だとエイドリアンがカラフェか何かをカタカタと揺らして音を立ててしまっているのが聞こえます。

これは別の音を私が聞き違えているのかな?


兄弟の対立理由

吹き替え版はわかりやすくしてくれているので単純に見える兄弟の対立軸ですが、英語版のセリフを聞いていると何となくそんな簡単な話でもないように思えます。

日本版だとリックがエイドリアンを嘲ってる感じが強いのと、愚かな弟という演技に終始しているので金目当てにワイン工場を売ってしまう愚かな弟が処刑されたように見えがちです。

しかし英語版だとリックはもっと落ち着いていて兄にこう言っています。

「カッシーニをリッチにするワインの方が良い(機械翻訳結果です)」

兄はカッシーニの名声を高めたワインと言っているのに対して弟が返した台詞がこれです。

吹替版だと愚かな弟がジャンジャンお金を使い込んじゃってついに会社まで売りに出したと見えますが、この二人の台詞の対立を冷静に考えてみると

兄「良いワインを作る」

弟「利潤をもっと多く出す」

と、それが良いか悪いかは別にして弟の方がビジネスライクにドライな考えをしているだけだと思われます。

つまりこの二人は経営に関する姿勢で以前から対立していて、会社を所有する弟が経営方針を曲げない従業員の兄に対して話にならないから会社自体をマリノ酒造に売って経営の軸足を利益優先に変えるよ?といいにきたわけです。

多分口喧嘩自体も以前からずっと繰り返されてきたんでしょう。

さてどっちが悪いのか?

もし会社自体の経営がうまくいっていないのだったらお兄さんに問題があるかも知れません(オークションで高いワイン買い漁ってる始末だし)。

会社を所有する弟に金がないということはもしかすると配当が行き渡っていないから高めの遊興費が捻出できないので飛行機に乗る金もないので金をくれと兄のところにきたとも考えられます。

だってワイン会社持っててなんで金ないんですかね?

でも日本語吹き替え版はリックがだらしないヒモの男が女の人にお金をくれよ?と言う様な感じに演技をしているので、この部分が見えにくくなってしまってるかも知れません。


マネーが吹き飛んだ

弟さんの話を全部そのまま真実だと仮定するとお兄さんは現金、弟さんは会社を相続し、弟さんは儲けを出すと思ってお兄さんに会社を任せたが資金が全部なくなった、「親父と同じだ」となじっています。

それに対してお兄さんの返事。

「父は善人だった」

これ話としてはわかりますが、会社経営の話としては返事になっていませんよ。

エイドリアンは自分の母は育ちが良く、弟の母は貪欲さを弟の中に残したと言います。

これ最悪なのはお兄さんの方で、ここでお母さんの話はひどいです。

それに会社の経営に関する話をしているのに、弟さんの性質とお母さんに対する悪口(おそらくお父さんが同じでお母さんは違うんでしょうこの兄弟、それを示唆する婚約者の台詞が後で聞けます)を言うのは違いませんか?

でもこのセリフに対する弟さんの返事が「今のは聞き流してやる」です。

吹き替えだと「今日は何を言っても我慢してやる」になります。

そしてお金を受け取るのがこの後なのでお金欲しさにこう言っているように聞こえますが、英語版で聞いてると弟さんが口の悪いお兄さんの態度を引き受けて争わずあくまで経営の話をしようとしています。

ただその弟さんも楽しんでお金使ってるぜと言うくらいなんで、まあどっちが悪いのかって言うのはなんかどっちもどっちな感じがしますね。


犯人と被害者の不可解な関係には、実は脚本家が忍ばせた深い裏設定が?

犯人と被害者の立ち位置が不可解です。

弟さんは殺される前に「(兄には)金、(弟の)俺には会社」をご両親が残しています。

でも兄エイドリアンはワイン作りに熱心で(ワインコレクションしちゃう)放漫経営ですが会社を運営できています。

弟はスポーツマンとプレイボーイの世界で名を馳せてはいますがお金は使い放題だしワインの事や会社経営なんか何もしてなさそうでさえあります。

この二人の特質はある程度ご両親も知っていたはずなのですよね。

じゃあさ。

あなただったらどうする?

例えば会社とお金を残して亡くなった方がとても親しい方で、二人の息子に財産分与を考えてくれと言われていたとします。

誰だって会社の持ち主は兄エイドリアンにしませんか?

でも両親は実子の問題なので弟のリックもちゃんと食べていけるようにしたかったんじゃないですかね?

だから兄には有限である現金を残して同時に会社の中でワイン研究と製造を任せる。

弟には名目上会社を残しておけば奔放に暮らしていたとしても会社の所有権を持っている弟のリックを仲の悪い兄エイドリアンが見捨てることはできないだろう。

そう考えたのかもしれないなって思いました。

だとすると、その親の思いを踏み躙って目先の金のことだけ考えた結果あのワイン会社をマリノに売るとか言い出して殺された弟リックはちょっと多面的に見て問題があったなあと思うんです。

マリノに売ってもある程度株所有して自分は名ばかりの経営者に留まる想定だったんですかね?

その際、エイドリアンの立ち位置がどうなってたかが気になります。

一応、ワイン研究しててもいいよ?ってポジションくらいはマリノ酒造とリックが話していたと思いたいです。


犯人がエアコンを止めた理由は?

日曜日 AM 婚約者とリックが電話後に事件発生、エアコンの切れた

月曜日 エイドリアンと秘書は空港からNYへ?

火曜日 秋雨 リックがこの日に死亡?(コロンボの会話でもこの想定)

水曜日 不審に思った婚約者がアカプルコから(やっと)LAに戻る

木曜日 猛暑 午前2時 LA市警のコロンボの所に婚約者が捜索を依頼に来る

金曜日

土曜日

日曜日 エイドリアンと秘書がNYから戻り、エイドリアンがリックを遺棄

月曜日 早朝 リックが発見される

胃の内容物は解剖の結果二日間(48時間)は食事をとっていないと見られているから中二日ワインセラーで生存していたと考えるとリックは火曜日に死亡。

この間に気温が異常に高い日が1日だけあった。

これがこの事件というかドラマの顛末です。

さて。

リックの窒息はワインセラーの庫内の酸素不足による物でしょう。

エイドリアンは冒頭でリックを縛り上げてワインセラーに放置、エアコンのようなもののスイッチをオフにして外に出ています。

あれがもし「エアコン」なら外気を入れ替えません、エアコンは熱交換システムであって外気を取り入れたりしません。

ただし新型コロナウイルスが流行って外気を取り入れながら空気を循環させるシステムは開発され実用されているようです(それ以前にも合ったのかも?)。

しかしワインセラーの庫内は温度、湿度ともしかするとエアーのリフレッシュが必要らしいです。

少なくとも熟成過程にあるとワインは

新陳代謝ガスを発生させる

っぽいのです、でこれが地下ワインセラーで起きるんであればコルクで栓をしたボトルワインからも発生するって事ですかね。

(樽じゃなくても出るのかなあそれ)

そしてその新陳代謝ガスの正体は

ワインの発酵時に排出される二酸化炭素は車や飛行機の5倍―研究者 【アメリカ】 2019年2月21日

もし仮にボトルワインから発せられる新陳代謝ガスが二酸化炭素でありワインセラーが温度と湿度と空気を管理せねばならないものなら、あのエイドリアンがオフにしたエアコンのようなものは外気を取り入れたり温度を一定に保つシステムを兼ねているのかもしれません。

瓶からも出るですかねえ?

そしてもしそうなら

 エイドリアンはマリノ社にワイン製造会社を売ろうとしたリックを、ワインから発せられる二酸化炭素で窒息させた

って事になるのかもしれないです。

瓶からも二酸化炭素出るんですかね?

これワイン屋さんで聞いてみたんですけど出ないんだそうです、じゃあワインのガスで処刑したというのは私の考えすぎみたいですね。

 でこの手の込んだ殺害方法が選択された理由はエイドリアンがコロンボに言っている通りです。

リックの死亡当日にエイドリアンはニューヨークに居た。

アリバイのために死亡日をずらしたかったというわけですね。

 

 

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